What’s Going on – James Jamerson / Marvin Gaye

ポピュラーミュージックにおいて、楽曲の色合いというか雰囲気というか、コンテキストのようなものを決定づける要素はなにか? そう聞かれたら、私は「ベースである!」と断言しますw

一見、ボーカリストの声質やドラムのビートのように、派手に前に出てくる音のほうが記憶に残っていそうな気がしますが、実はその奥の方で淡々と裏のメロディーを奏でているベースラインこそ曲の印象として深く心に刻まれているように私は思うのです。

そのことをわかりやすく証明してくれる最高のソウルレーベルがあります。マイケル・ジャクソン、スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、ダイアナ・ロス、スモーキー・ロビンソンなどの大スターを数多く輩出し、永遠の名曲をこれでもかとリリースし続けた「モータウン」です。

1959年にベリー・コーディ・ジュニアが設立したモータウンには、腕利きばかりを集めた「ファンク・ブラザーズ」というスタジオミュージシャンのグループがありました。ほとんどのヒット曲は彼らの演奏によるものでしたが、このバンドにのちに伝説となるスーパーベーシストがいたのです。それが今回の主役、ジェームズ・ジェマーソンです!

ピックアップカバー付きのフェンダー、プレシジョンベースが彼のトレードマーク。もともとアップライトのベースを愛用していたためか、音があまり伸びないフラットワウンドの弦を使っていたそうです。また、「ザ・フック」と呼ばれた人差し指だけを使う彼独特の奏法もアップライトベースの影響と言われています。

そのジェームズ・ジェマーソン、1965年あたりから革命的とも言えるベースラインを披露し始めます。もっとも有名なところでは、ダイアナ・ロスとシュプリームスの『You Can’t Hurry Love』。1966年の作品です。

いまではすっかりポップスの定番アレンジになった「ブン、ブン、ブーン」というイントロのベース。注目していただきたいのは、小節アタマの「ブン」の直前のウラに入っている小さな「ブ」の音です。よく聴くと「ブブン、ブン、ブーン」と鳴っているのがわかると思います。

これぞまさにグルーヴ! この曲を聴くだけで自然にカラダが動いてしまう秘密がここにあるのではないかと。なんというか、優雅に見える白鳥が水中でものすごい速さで足を動かしているあの感じにも似ています。

個人的にかなり好きなフォートップスの『Reach Out』(1966年)は、ファンクブラザース名義の歌なしバージョンが見つかりました。YouTubeってやっぱりすごいですねw

ドラムのノリは基本的に「ワン、ツー、スリー、フォー」の四分アタマ打ち。そこに「ブ・ブ・ブ・ブ」という倍の8分刻みや「ブブブンブン」と16分のラインが乗ってきます。ベースラインが曲の盛り上がりや緊張感を支配している好例だと思います。

そしてアッシュフォード&シンプソンによるこの名曲! マーヴィン・ゲイとタミー・テレルの『Ain’t No Mountain High Enough』です。なんと、ボーカルとベーストラックのみというありえないミックスがこちら!

とにかく、2人の歌の素晴らしいことといったらありません。そしてストーリーをしっかり創り上げていく珠玉のベースライン。これ、歌とベースだけでも涙が出そうになります。

1967年のスティーヴィー・ワンダー『I Was Made to Love Her』あたりになってくると、そのフレーズはさらに洗練されてきます。YouTubeにはジェームズ・ジェマーソンマニアがたくさんいて、ベースラインを視覚的に伝えるこんなビデオも上がっていますw

このビデオでは音量を玉の大きさで表してくれていますが、とくに小さい玉を追っていくと「ウオーッ」とシビレ度が増していきますw これ、音ゲーにしても楽しそうですね。「ジェームズ・ジェマーソンのベースの達人」とかw

※と書きましたが、このベース本当はキャロル・ケイによるものだそうですw 失礼しました!

ほかにも挙げればキリがありません。テンプテーションズの『My Girl』、マーサ&ヴァンデラスの『Heat Wave』『Dancing in The Street』、シュプリームスの『You Keep Me Hanging on』などなど。

ここまででも十分にすごいのですが、私が本当におすすめしたいのは70年以降のジェームズ・ジェマーソンです。彼のアグレッシブなスタイルは次第にソウルベースのスタンダードへと進化していきます。

たとえるなら、のちのソウルベースのボキャブラリーを集めた単語集のような感じです。「ソウルミュージックのベース弾きたいなら、このフレーズを覚えておけよ」といった感じでしょうか。

私の中での真骨頂はジャクソン・ファイブの『Darling Dear』(1970年)。イントロ終わり、歌が入る瞬間のベースラインに注目ですw

なんというか歌の世界に連れて行ってくれるスムーズな階段が見えるような気にさせてくれます。

さて、私なりにジェームズ・ジェマーソンの魅力を紹介してきましたが、今回おすすめしたいのが、そんな彼の集大成ともいえるこの作品。ソウル界の金字塔、永遠の名盤、マーヴィン・ゲイの『What’s Going on』(1970年)です!

楽曲の終わりのコードから次の曲が始まるという、コンセプトアルバム的な創りがクールなマーヴィン・ゲイの代表作。すでになんども聴いてるという方が多いことでしょう。でも今回ぜひ、ジェームズ・ジェマーソンのベースラインにフォーカスして聴き直してみてください。冒頭に書いた「曲の彩りを決めるベース」を存分に感じていただけると思います。

先の『Ain’t No Mountain High Enough』と同様に、ボーカルトラックとベースだけでミックスされたこのバージョンなんかをあらかじめ聴いておくとわかりやすいと思います。タイトルナンバーの『What’s Going on』です!

それにしても、いつも変わらず同じ音色というのもすごいですねw もちろん、マーヴィンのボーカルの完成度にも改めて驚かされます。

貴重な「動くジェームズ・ジェマーソン」の映像もありました。人差し指の「ザ・フック」奏法やピックアップカバー付きのプレシジョンベースがバッチリ映っています。ただただ、かっこいい!

それにしてもこのライブ、基本的にマーヴィンの歌とドラムのスネア、コンガ、そしてベースだけで成り立っている感じがします。

というわけで、今回はあえてクレジットをJames Jamersonとして名盤『What’s Going on』を紹介させていただきました。私が心からリスペクトするマーヴィン・ゲイもまた別の機会に書きたいと思います。では、最高のソウルベースの世界をお楽しみください!

※ 本記事を執筆後、バンドのメンバーから『I Was Made to Love Her』など、本当はL.Aのスタジオミュージシャン、キャロル・ケイが弾いていると判明している楽曲があるとの指摘を受けました。

たしかに『I Was Made to Love Her』に関してはキャロル・ケイの公式サイトのリストにも載っていました。

ほかにも『Reach Out』や『You Can’t Hurry Love』などもその可能性があるとのことw 勉強不足で申し訳ありませんが、あくまで『What’s Going on』を楽しむためのおまけ情報ということでお許しください!

What’s Going on – Apple Music

What's Going on - James Jameson / Marvin Gaye
What’s Going on – James Jameson / Marvin Gaye